不登校の対応をめぐって、夫婦の意見が割れる。よくあることです。「甘やかすな」と言う夫と、「いまは休ませたい」と思う自分。どちらかが折れるまで話は終わりません。
先に結論をお伝えします。二人の意見は、そろえなくて大丈夫です。
元小学校教員として15年、いまは公認心理師・スクールカウンセラーとして学校現場にいます。ご夫婦の言い分がずれたまま面談に来られる家庭を、何軒も見てきました。間に入って言い分を整理する役も、SCとして担ってきました。
間に入る側から見えたことを書きます。なお私の現場は小学校です。中学以降は事情が変わる部分があります。
夫婦の意見は、そろえなくて大丈夫です
目指すのは意見の一致ではありません。折り合いのつく落とし所を、二人で探すことです。父親と母親は別の人間なので、考え方が違うほうが自然です。
ただし、1つだけそろえておきたいことがあります。子どもの前でどう振る舞うかです。方針は違ったままでかまいません。子どもに見せる姿だけ、二人で合わせます。
そろえるのは「子どもの前でどう振る舞うか」の1点だけです
家の中の判断を、全部そろえる必要はありません。朝の声かけが父親と母親で違っても、子どもは混乱しません。混乱するのは、二人が目の前で言い争ったときです。
| 家の中の場面 | どうするか |
|---|---|
| 学校を休む日の受け止め方(父は残念がる・母はねぎらう) | 一致させなくていい |
| 勉強をどこまで求めるか | 一致させなくていい |
| 将来の見通しの考え方 | 一致させなくていい |
| ゲームや動画の線引き | 時間の上限だけ1つに。中身の評価はずれてよい |
| 子どもの前で、相手の対応を否定しない | そろえる |
| 子どもの前で、不登校の話で言い争わない | そろえる |
意見が割れている家は、あなたの家だけではありません
母親66人の調査では、77%が「意見の食い違いがある」と答えています
不登校オンライン(株式会社キズキ)が2025年3月に行った調査があります。対象は、子どもが不登校または行き渋りの保護者66人です。回答者は全員が母親でした。
夫婦で意見の食い違いが「よくある」「たまにある」を合わせて77.05%。夫婦関係に「危機を感じた」は73.02%でした。
66人の調査なので、世の中の平均だとまでは言えません。ただ、割れているのがあなたの家だけではないと分かります。
父親と母親は別の人間なので、考えが違うほうが自然です
私は面談で、こう申し上げてきました。そもそも父親と母親は別人です。だから考え方が違って当たり前です。
意見がぴたりと同じ夫婦のほうが少数派だと感じます。困るのは違いそのものではありません。違ったまま話が前に進まないことです。
言い分がずれたまま止まると、夫婦に亀裂が入ります。父親も母親も職場で人を管理する立場だと、仕事の重さも重なります。家庭が良くない方向へ進んでいく例を、私は何軒か見てきました。
「甘やかすな」と言う夫の言い分には、根拠があります
言い分の正体は、お父さん自身が無理やり行かされた記憶です
面談でお父さん方から聞いてきた言葉は、だいたい似ています。
- 「学校に行かない選択肢が、自分にはなかった」
- 「休みたいと言おうものなら叩かれて、無理やり行かされた」
- 「それでも自分は、こうして大人になった」
- 「もっと厳しくすれば、解決しそうなんですけど」
「甘やかすな」の下にあるのは、精神論ではありません。自分は耐えて大丈夫だった、という実体験です。お父さんにとっては、たった1つ持っている根拠になります。
夫の経験を否定しないまま、いまの子に当てはまらない部分だけを分けます
「時代が違う」と返すと、話はそこで終わります。お父さんは、自分の人生を否定されたと受け取るからです。
おすすめは、先に認めてしまうやり方です。「あなたは耐えられた人だったんだね」と言葉にします。そのうえで、いまの子の状態を1つだけ足します。
「この子は、朝になると本当に吐いている」。事実を1つ置けば足ります。夫の記憶と、目の前の子どもの体は別の話だと、少しずつ分かれていきます。
子どもの前での言い争いだけは、今日でやめてください
仲の悪い両親を見るのは、子どもにとってとてもつらいことです。私が現場で確信している、数少ないことの1つです。
毎日のように言い争う場面を見せているなら、精神的な虐待に近いと私は考えています。実際、配偶者への暴力を子どもに見せる行為は、法律でも心理的虐待に含まれます。
責めるために書いているのではありません。今日から手を打てる、いちばん確実な1つだから最初に置きました。
子どもは「自分のせいで両親が争っている」と受け取ります
不登校の話で両親が言い合えば、話題の中心は子ども自身です。子どもは、原因が自分にあると受け取ります。
学校に行けない罪悪感の上に、家庭を壊している罪悪感が重なります。削られるのは、回復に向かうための力です。
言い争いになりそうなときは、場所を変えるだけで足ります
話し合いをやめる必要はありません。場所と時間を、子どもの視界の外へ移すだけです。
- 不登校の話は、子どもが寝たあとか、家の外でする
- 声が大きくなったら、その日は打ち切る(勝ち負けをつけない)
- 子どもの前では、相手の対応を否定しない。「お父さんはそう考えてるんだね」で止める
なお、家の中で暴力や暴言が続いているなら、話し合いの段階ではありません。配偶者暴力相談支援センターや、自治体の相談窓口へ先にご連絡ください。
お子さんのほうに、眠れない・食べられない・朝起き上がれないといった状態が2週間以上続いているときも同じです。夫婦の話し合いより先に、小児科や児童精神科にご相談ください。
話し合いは「対応」ではなく「分担」から始めます
「この子をどうする?」から入ると、話し合いは意見のぶつけ合いになります。答えの出ない問いだからです。
入り口を変えます。「どっちが、何をやる?」です。役割の話なら、意見が違っても決められます。
夫に渡すなら、意見のいらない役割からです
お父さんに最初から「気持ちの受け止め」を頼むと、たいてい失敗します。意見の入らない役割から渡してください。
| 渡しやすい役割 | 渡しやすい理由 |
|---|---|
| 学校への欠席連絡 | 手続きなので、方針の違いが表に出ない |
| 担任・SCとの面談に一緒に出る | 第三者の説明を、二人が同時に聞ける |
| 昼食の用意や送迎など、日中の実務 | 母親に寄りやすい仕事を、そのまま分けられる |
| フリースクールや教材の情報集め | 調べる作業は、父親に丸ごと移しやすい |
| 休日の外出(勉強の話はしない約束で) | 父子の関係を、対立から離れた場所で保てる |
面談に一緒に来ていただくのは、担任時代からいちばんお願いしてきたことです。お父さんは、家の中の説明より、外の人間の説明のほうが入りやすいからです。
二人で決まらないなら、進行役を外から呼んで構いません
言い分がずれたまま止まっているなら、二人だけで進めるのをやめます。第三者に言い分を整理してもらい、もう一度話し合うのが現実的です。私はSCとして、間に入る役を担ってきました。
最初に頼む相手は、無料で会えるスクールカウンセラーです
費用はかかりません。学校を通して申し込めば、多くの自治体で無料です。夫婦の考え方のずれも、相談の範囲に入ります。
「子どもの相談しかできないのでは」と思われがちですが、違います。家庭の中の意見の食い違いは、SCが日常的に扱っている相談です。
頼み方は「夫婦で意見が違うので、間に入ってほしい」で通じます
言い方に工夫は要りません。担任か学校の窓口に、こう伝えてください。
「夫婦で対応の考え方が違っていて、家で話が進みません。スクールカウンセラーに、二人で相談させてもらえませんか」
夫が同席を渋るなら、母親だけで先に会って構いません。一度会ってから「次は二人で」と提案する順番が、いちばん通りやすいと感じています。
スクールカウンセラーで足りないときの窓口
- 自治体の教育相談室——無料。学校を通さずに申し込めます
- 教育支援センター(適応指導教室)——子どもの居場所の相談と一緒に、家庭の話もできます
- 親の会——同じ立場の親が集まる場。夫の理解が得られない悩みは、定番の話題です
公的な窓口を使い切っても足りないときに、はじめて有料の相談を考えれば十分です。
もうひとつ。夫と揉めた日ほど、自分の消耗は後回しになります。眠れない日が続いているなら、不登校の親が「しんどい」「もう疲れた」と感じたらを先に読んでみてください。話し合いより、あなたの回復が先の日もあります。
よくある質問
夫が話し合いそのものを拒みます
話し合いを求めるのを、いったんやめます。報告だけを短く渡す形に切り替えてください。「今日は3時間目から行けた」で十分です。判断を求められなければ、拒む理由がなくなります。
祖父母にも「甘やかしだ」と言われます
説得する相手を増やさないでください。祖父母への説明は、実の子である側が引き受けます。母親が義父母を説得する形にしないことが、消耗を減らす分かれ目になります。
夫婦の意見が違うと、不登校は長引きますか
長引くかどうかは、私には分かりません。追跡したデータを持っていないからです。言えるのは、両親の言い争いを見た子がつらい思いをするところまでです。
まとめ
- 意見の一致は目標にしない。父親と母親は別人なので、考えが違うほうが自然
- そろえるのは「子どもの前でどう振る舞うか」の1点だけでよい
- 「甘やかすな」の下にあるのは精神論ではなく、夫自身が無理やり行かされた記憶。否定せずに、いまの子の事実を1つ足す
- 話し合いは「どうする?」ではなく「どっちが何をやる?」から。意見の要らない役割から渡す
- 二人で決まらないなら、進行役を第三者に外注する。最初の相手はスクールカウンセラーで、費用はかからない
今日できる一歩は1つだけです。不登校の話をする場所を、子どもの視界の外へ移してください。移すだけで、家の空気は変わります。
意見が割れるのは、二人とも子どものことを真剣に考えている証拠です。どうでもいい相手のことで、人は言い争いません。向いている方向は、たぶん同じです。











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