夏休みの終わり、家には全員がそろっています。学校を休んでいる子と、毎日通っている子。距離が近いぶん、この言葉が出やすい時期です。
元小学校教員として15年、いまはスクールカウンセラーとして学校現場にいます。この記事では、そのまま使える言葉と、説明がいちばん難しくなる時期、親が倒れないための家庭内の分担を書きます。「連鎖を防ぐテクニック」の記事ではありません。現場にいた人間として、それより先に言っておきたいことがあるからです。
「ずるい」と言われたら、この言葉で返してください
いきなり「ずるくないよ、お兄ちゃんは大変なんだから」と返すと、下の子には「自分の気持ちは却下された」としか届きません。順番はこうです。
- 気持ちをそのまま受け取る(「そう見えるよね」)
- 目に見えないことを説明する(「心の風邪」)
- あなたにも起こりうると伝える(「そのときは先に言ってね」)
私が現場で使ってきた説明は、風邪のたとえです。低学年でも通じます。
「そう見えるよね。ずるいって思うの、分かるよ。
でもね、心も風邪をひくときがあるんだよ。体の風邪のときは熱が出たり鼻がつまったりして、見ただけでしんどいって分かるでしょ。心の風邪は、見た目は元気なんだ。だから分かりにくいの。
でも、なんだかいつもと違うの、分かる? なんだか元気がないでしょ。
心の風邪は誰でもひくよ。あなたにもそういう時が来るかもしれない。そうかもって思ったら——ううん、思う前でいいから、お母さんに言ってね。」
高学年以上には一言足します。「心の風邪は、友達とのちょっとした言い合いとか、何気なく言われた一言とか、小さいことの積み重ねで起きることが多いんだよ」。原因が大事件でないと知っておくと、その子自身がしんどくなったときに「こんな理由で休むなんて」と自分を責めずにすみます。
この説明の狙いは、上の子をかばうことではありません。下の子に「あなたも同じように助けてもらえる」と伝えることです。「ずるい」の下にあるのは、多くの場合そこへの不安です。
逆効果になりやすい返し方
よかれと思って出てしまう言葉ほど、あとを引きます。
| つい言ってしまう言葉 | 言い換えるなら |
|---|---|
| 「ずるくないでしょ、お兄ちゃんは辛いんだから」 | 「そう見えるよね。ずるいって思うの分かるよ」(まず受け取る) |
| 「あなたは元気なんだから我慢して」 | 「あなたが毎日行ってるの、ちゃんと見てるよ」(努力を名指しする) |
| 「お兄ちゃんの気持ちも考えて」 | 「今日はあなたの話を聞かせて」(1対1の時間をつくる) |
| 「お姉ちゃんみたいになったら困る」 | (言わない。上の子を「悪い例」にすると、家の中に居場所がなくなります) |
| 「そんなこと言わないの」 | 「言ってくれてよかった。ちゃんと考えるね」 |
特に4つ目は、上の子・下の子の両方を同時に傷つけます。きょうだいを比べる言い方は、この状況ではいちばん高くつきます。
いちばん説明が難しいのは、回復してきた時期です
正直に書きます。私が「これは難しい」と感じてきたのは、休み始めの時期ではありません。子どもが回復してきて、家の中で笑ったりゲームで盛り上がったりし始める時期です。
親から見れば回復の途中。でも毎日通っているきょうだいの目には、「めっちゃ元気じゃん」としか映りません。しかも自分は、行きたくない日も行っている。ここで「ずるい」が再燃するのは、むしろ自然なことです。
言葉で完全に納得させるのは難しい、と最初から思っておいてください。目標は「分かってもらう」ではなく、下の子の不満が、下の子自身の手当てにつながることです。「そう見えるよね」で受け取って、その日は下の子と2人でコンビニに行く。それで十分に意味があります。
正直に言います。きょうだいの登校しぶりは、めずらしくありません
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。現場にいた体感として、きょうだいのほうにも登校しぶりや不登校が出てくるケースは、決してめずらしくありません。統計ではなく、私が学級で見てきた範囲での実感です。ただ、この実感があるからこそ、あえて逆のことを言います。
「防ぐ」ことに全力を注ぐより、「そうなるかもしれない」と想定しておくほうが、親御さんを守ります。
「絶対に連鎖させない」と気を張っていると、下の子が「お腹が痛い」と言っただけで心臓が跳ねます。その緊張は子どもに伝わります。それより最悪を一度想定しておいて、ならなかったらラッキー。これくらいの構えのほうが、結果として家の中が静かになります。長く続く状況で親が持ちこたえるには、この心持ちが要ります。
そのうえで、下の子に出やすいサインです。
- 急に「手のかからないいい子」になる(心配をかけまいと我慢している状態。いちばん見落とされます)
- 朝の腹痛・頭痛が増える、寝つけない・夜中に目が覚める
- 学校で落ち着かない、友達とのトラブルが増える
- 家で親を困らせることをわざと言う・する(構ってほしさの表現であることが多いです)
最後のものは、上の子につきっきりで下の子に手が回っていないときによく出ます。叱る前に「最近この子と2人だけで話したのはいつか」を思い出してみてください。
なお、朝どうしても布団から起き上がれない/夜中に何度も目が覚める/食欲が落ちた/以前は楽しめていたことを楽しめない——こうした状態が2週間以上続くときは、様子見にせず、スクールカウンセラーや小児科・児童精神科にご相談ください。気持ちの問題に見えて、体の不調が背景にあることがあります。上の子にも下の子にも当てはまります。
きょうだいのケアは、母親一人では回りません
ここまで読んで「やることが増えた」と感じた方、そのとおりです。不登校の子を支えながら、きょうだいのケアも同時にやる。一人で背負える量ではありません。だからこの記事で唯一「やってください」とお願いしたいのは、声かけではなく大人側の分担を決めることです。
| 持ち場 | 担当の例 | 具体的に何をするか |
|---|---|---|
| 休んでいる子の日中 | 母(または在宅時間の長い人) | 朝の様子を見る、無理に起こさない、学校との窓口 |
| きょうだいの1対1の時間 | 父・祖父母など、母以外 | 週1回30分でいい。送迎の車内、買い物、風呂——「2人だけ」が要件 |
| きょうだいの学校のこと | 父 | 持ち物・宿題・行事の確認を引き取る(母の同時処理を減らす) |
| 家事の一部 | 祖父母・外部サービス | 夕食を週2回だけ外注する、でも効果があります |
ポイントは、きょうだいの1対1を母以外が担当することです。母親は上の子の対応で気持ちを使い切っていることが多く、そこにもう一枠足すのは現実的ではありません。父親や祖父母には「話を聞いてやって」と頼むより、「土曜の朝、この子とだけ買い物に行って」と持ち場で頼むほうが確実に動きます。
この分担が進まないときの原因は、たいてい親御さん自身が限界に近いことです。自分を責める気持ちが強い方ほど、人に頼むのが後回しになります。そういうときは親自身がしんどくなったときのセルフケアを先に読んでください。順番として、そちらが先です。
担任に「きょうだいが不登校です」と伝えておく
最後に、学校側から見た話をひとつ。下の子の担任に上の子が学校を休んでいることを伝えておくと、初動が変わります。その情報があれば、下の子が登校しぶりを見せ始めたときに担任が「やっぱりか」と気づけるからです。何も知らなければ、朝の遅刻が続いても「寝坊が増えたかな」で流れてしまいます。
伝え方は、重くしなくて大丈夫です。
「実は上の子が去年から学校を休んでいまして。下の子は今のところ変わりなく通えていますが、家の状況としてお伝えしておきます。もし学校で気になる様子があれば、小さなことでも教えていただけると助かります。」
これだけで、担任は下の子を見る目盛りを一段細かくします。「言うと特別扱いされないか」と心配される方がいますが、私の経験では逆で、事情を知らない担任のほうが対応は遅れます。内情を細かく話す必要はありません。事実を一行、それで足ります。
まとめ
- 「ずるい」には受け取る→心の風邪の説明→あなたにも起こりうると伝えるの順で返す
- 「ずるくないでしょ」から入らない。きょうだいを比べる言い方が一番高くつく
- いちばん難しいのは回復してきて「元気に見える」時期。納得は目標にしない
- きょうだいの登校しぶりは、現場の体感としてめずらしくない。だからこそ「防ぐ」より「想定しておく」
- 下の子のサインは「急にいい子になる」がいちばん見落とされる
- ケアは一人では回らない。きょうだいとの1対1は母以外の持ち場にする
- 下の子の担任に一行伝えておくと、初動が早くなる
今日できる一歩は、上の子への声かけを変えることではありません。下の子と2人きりになる時間を、今週のどこに置くか決めることです。30分で構いません。「ずるい」と言えた子は、まだ親に向かって手を伸ばしています。その手を握る時間さえあれば、言葉は少し足りなくても届きます。











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