「勉強しない子は、ほっといていいのか」
検索すると、出てくる答えはだいたい同じです。「放置は危険」「今のうちに手を打ちましょう」。
ただ、その記事を書いているのは塾・家庭教師・通信教育の会社であることがほとんどです。「放っておいて大丈夫ですよ」とは、立場上いちばん書けない人たちでもあります。
先に結論をお伝えします。
「ほっとく」か「動かす」かの二択が、そもそも間違いです。
やめるのは急かす声かけだけ。見ることはやめない。この2つを分けられると、家の中がずいぶん静かになります。
この記事でわかること。
- 先に動かすと何が起きるか(現場で見てきた失敗の形)
- まずやめる3つ
- やめないでいい1つ
- それでも動かないときに疑う場所
書いているのは、小学校教員約20年・公認心理師・現役スクールカウンセラーです。教材を売る立場ではないので、「それは効きません」という話も含めて正直に書きます。
この記事は学校には行っているけれど家で勉強しない小学生の話です。学校を休んでいる場合は事情がまったく違うので、不登校で「勉強しない」のは甘え?のほうをお読みください。
「ほっとく」か「動かす」かの二択が、そもそも間違いです
親が迷っているのは、たいてい次の2つが1つにくっついているからです。
- 急かす声かけ——「勉強しなさい」「まだやってないの」「そんなんで大丈夫なの」
- 見ること——今どこでつまずいているか、何なら手が動くかを知っておくこと
「ほっとく」を選ぶと、この2つが両方止まります。だから危ないと言われます。
でも「動かす」を選ぶと、増えるのは急かす声かけのほうだけで、見る力は増えません。うるさくなるだけで、何も分からないままです。
やることは1つです。急かす声かけだけをやめて、見るのは残す。
これを現場では「見守る」と呼びます。放置とは、見るのをやめたときのことです。
先に動かすと何が起きるか——塾を「敵」だと思った子の話
順番を間違えた結果を、私は何度か見ています。
無理やり連れて行かれた子は、塾を「敵」だと認識します。「親とグルだ」と思うのです。
そうなると、そこから先が本当に大変です。せっかくお金を払って用意した第三者の手が、その子の中では味方ではなく監視役になってしまう。次に別の塾を勧めても、もう乗ってきません。
ここが、勉強嫌いの相談でいちばん取り返しがつきにくいところです。
成績は後から戻せます。でも「大人に勉強のことで仕掛けられた」という記憶は、しばらく残ります。
だから順番は、やめること → 見ること → それでも動かなければ第三者です。逆から入らないでください。
まずやめる3つ
①「勉強しなさい」と言う
いちばん効かない一言です。効かないどころか、逆に働きます。
「子供の生活と学びに関する親子調査 2015 – 2016」(東京大学社会科学研究所ベネッセ教育総合研究所)によると、「勉強好きな子」は自分の好奇心や関心など内発的動機から勉強している。割合が高いのに対し、「勉強嫌いの子」は、 先生や親に叱られたくないからという外発的動機で勉強している割合が高いことがわかりました。
意見や行動を他人から強制されると反発し、かえって自分の意見に固執することを、心理学では「心理的リアクタンス」と呼びます。
「勉強しなさい」と叱れば叱るほど、子どもは強く反発し、勉強から遠ざかります。
同じ調査では、やみくもに叱るより「最初の10分間でよいので、子どもと一緒に勉強してやるほうが効果的」とも言われています。
口で動かすのをやめて、隣に座る。それだけで役割が「監督」から「同伴者」に変わります。
②「できたら褒める」で動かす
ここは意外に思われるところです。世の中の記事はほぼ全部「ほめて伸ばしましょう」と書いてあります。
私が気をつけているのは褒める的(まと)をどこに置くかです。
結果だけを褒め続けると、「やらないと褒められない」というメッセージが裏側で伝わります。教育の世界では、こういう「教えていないのに伝わってしまうもの」をヒドゥンカリキュラム(潜在的カリキュラム)と呼びます。褒めているつもりで、条件をつけてしまっているわけです。
置き直す先はこちらです。
- ×「100点すごい!」「全部終わってえらい!」——結果が的
- ○「さっき、やろうとして机まで行ったよね」「1問目でやめずに2問目いったの見てたよ」——頑張ろうとした気持ちが的
褒めるのをやめる必要はありません。的をずらすだけです。
③ 教材を増やす
勉強しないと、つい新しいドリルやタブレットを足したくなります。ここで1つ、正直な話を。
問題は、教材よりも支援者です。
教材を替えて最初の数日はやります。でも、そこでつまずいたときに隣で「そこは、こう見るんだよ」と言ってくれる人がいるかどうかで、その後がまるで違います。いない状態で教材だけ増やしても、家に「やらなかったもの」が積み上がるだけです。
特に、勉強がとても苦手な子ほどタブレット教材だけでは向かいません。「どうせやってもわからない」が先に立つからです。キャラクターもののドリルは、とっかかりとしては良いです。でもとっかかりであって、続きは人の役目です。
やめないでいい1つ——大人が学んでいる姿は、そのまま残す
これだけは、やめないでください。大人が学ぶことを楽しんでいる姿を、そのまま見せておくことです。
「学ぶ」は「まねぶ(真似ぶ)」から来ている、という話があります。真似するところから学びは始まります。子どもは、言われたことより見た姿を真似ます。
サッカーで考えると分かりやすいと思います。同じチームに世界トップレベルの選手がいるのと、いないのとでは、周りの選手の伸び方が変わります。毎日、間近で本物を見られるからです。
親が資格の勉強をしていてもいいし、本を読んでいてもいい。「大人になっても学ぶのは普通のことだ」という景色が家にあるだけで十分です。
これは声かけではないので、心理的リアクタンスも起きません。やめる理由がありません。
それでも動かないときは、「やる気」ではなく「わからない場所」を疑う
ここまでやっても手が動かない子がいます。そのとき、やる気の話に戻らないでください。疑うのは「わからない場所」です。
勉強がとても苦手な子は、やる気がないから向かわないのではありません。「どうせやってもわからない」と分かっているから、自分から向かわないのです。順序が逆なのです。
特に、次のような子は「やる気を出させる」方向の働きかけが効きません。
- 学力そのものにつまずきがある子
- 「どうせ自分なんて」が口ぐせになっている子(自己肯定感が下がっている子)
この場合に必要なのは、励ましではなく「どこから分からなくなったか」を一緒に探してくれる人です。学年をさかのぼるので、親子だとぶつかりやすい作業でもあります。ここが、第三者の手を借りていい場面です。
ただし、順番だけは守ってください。急かす声かけをやめないまま塾や家庭教師を入れると、さっきの「敵」の話になります。
選ぶときに私が見ているのは、料金でも合格実績でもありません。その先生が、本当に子どものことを好きかどうかです。あとは時間内の進み方と授業の質が、日ごとに良くなっているか。お金のためにやっている先生は、受けている側にちゃんと伝わります。
選び方の軸はどの家庭でも同じなので、そのあたりは不登校の家庭教師はいつから?向く子・向かない子を元教員が正直に解説に、向かない子の条件も含めて正直に書きました(不登校のお子さん向けに書いた記事ですが、見るポイントは共通です)。
なお、宿題の時間そのものが親子ともにつらくなっている場合は、勉強量より先にその場面を軽くしたほうが早いです。子供の宿題を見るのが苦痛すぎる〜親の宿題ストレス軽減法4選〜にまとめてあります。
今日できる一歩
今日から変えるのは、1つで十分です。
今日1日、「勉強しなさい」を言わないでみてください。
そのかわり、机に向かったかどうかではなく、向かおうとした瞬間だけ見ておく。見つかったら一言だけ言う。見つからなければ何も言わない。
それで明日すぐ勉強を始める子は、まずいません。変わるのは、家の空気のほうが先です。「勉強の話をすると気まずくなる」がなくなってから、やっと中身の話ができるようになります。
勉強嫌いは、直さなくていいものです。
直したいのは、勉強の話をするたびに親子の関係が削れていく状態のほうです。そこさえ止められれば、勉強はあとからでも間に合います。
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