「行きたくない」と泣く子を、玄関で靴をはかせながら、心の中で謝っていました——そんな朝を過ごしている保護者の方は、少なくありません。
無理にでも行かせたほうがいいのか。今日は休ませたほうがいいのか。ネットで調べても、意見は真っ二つです。担任に相談すれば「しばらく様子を見ましょう」。それで本当にいいのか、わからないまま朝が来る。
この記事でわかること
- 無理やり行かせて得られるもの・失うもの(現場で見てきた本音)
- 今朝、行かせるか休ませるかを分ける1つの軸
- 休ませると決めた日に、残しておきたい3つのつながり
- 専門機関に相談する目安になる、体のサイン
執筆・監修:元小学校教員(約20年)/公認心理師・現役スクールカウンセラー。
結論|「行かせる・休ませる」より先に決めることがあります
先に結論から書きます。この二択で悩みつづけると、答えは出ません。どちらにも一理あるからです。
不登校の子を見てきて、いちばん心配なのは「引きこもり」になっていくことです。社会とのつながりが切れ、家族との会話も減っていくと、生きる意味そのものが薄くなっていきます。逆に言えば、学校・友だち・教育支援センターなど、家の外とのつながりが1本でも残っていれば、状況は動きます。
だからものさしを、こう立て直してみてください。
「今日、学校に行ったか」ではなく
「家の外とのつながりが、何本残っているか」
このものさしで見ると、「行かせる/休ませる」は目的ではなく手段になります。つながりが増えるなら行かせていい。つながりを削るなら、今日は休ませたほうがいい。判断がぐっと楽になります。
無理やり行かせて得られるもの・失うもの
感情論ではなく、損得で並べてみます。
| 得られるもの | 失うもの |
|---|---|
| 今日1日の出席 | 「親に言われて行かされた」という記憶 |
| 親の「今日はなんとかなった」という安心 | 相談してもらえる関係(本音を言わなくなる) |
| —— | 学校そのものへの嫌悪感(行けば行くほど強くなる場合がある) |
得られるのは、基本的に「今日1日の出席」だけです
無理やり連れて行けば、たしかにその日の出席は取れます。ただ、そこで終わりです。翌朝また同じ攻防が始まり、それが2日、3日と続くことが多い。根本のところが何も変わっていないからです。
失うのは、その後の親子関係です
ここが、いちばん正直にお伝えしたいところです。無理強いの本当のコストは、その日うまくいかなかったことではなく、親子関係に残る不安のほうだと感じています。
「行かされる」「やらされる」という状態は、気持ちが後ろ向きのままです。参加しても楽しめず、やり切れない。そして「あのとき、保護者に言われたから行った」という記憶だけが残ります。これが後々、親子の間に小さなしこりとして残ることがあります。
子どもが困ったときに親へ相談できるかどうかは、この時期の関わり方でずいぶん変わります。今日の出席と、これから10年の相談相手。天秤にかけると、答えは見えてくるのではないでしょうか。
なぜ無理やりが効かないのか|行きしぶりの子は「学校に行く理由」を失っています
現場で行きしぶりの子を見ていて気づいたことがあります。この子たちは、学校に行く理由——つまり「学校での、いいこと」を失っているのです。
- 授業がわからない。座っているだけの時間が続く
- 一緒に過ごす友だちがいない。休み時間がいちばんつらい
この状態の子を無理やり連れて行くのは、「修行してこい」と言っているのと同じです。楽しいことが1つもない場所に、毎朝送り出されている。そう考えると、子どもの抵抗の強さにも納得がいきます。
「休みグセがつく」「学校は行くもの」——その価値観で押しても、子どもは動きません。押すより、失った理由を1つずつ戻すほうが早い。これが現場の実感です。
今日の朝、行かせるか休ませるかを分ける1つの軸
朝はゆっくり考えている時間がありません。見るところを1つに絞ります。
「行きたい気持ちが少しでも残っているか」
それとも「体のほうが先に止まっているか」
体のサインが出ているなら、休ませる
朝、布団から起きられない。夜中に何度も目が覚める。食欲が落ちている。前は楽しんでいたことを楽しめない。こうしたサインが出ているときは、迷わず休ませてください。気持ちの問題ではなく、体がもう限界を伝えています。この段階で登校を促しても、良い方向には向かいません。
「行きたい気持ちはある」なら、時間と場所を小さくする
「本当は行きたいけど、教室はしんどい」——この状態なら、全か無かにしないでください。0か100かの間には、こんな選択肢があります。
- 時間を小さく:1〜2時間目だけ/給食だけ/放課後に荷物を取りに行くだけ
- 場所を小さく:教室ではなく保健室・別室・相談室から
- 目的を小さく:授業ではなく「仲のいい子に会いに行く」
楽しみがある状態なら、担任やスクールカウンセラーと相談しながら少しずつ頑張ってみるのも、選択肢として十分ありです。大事なのは、本人が「行きたい」と思えるものが1つでもあるかどうかです。
休ませると決めた日に、残しておきたい3つのつながり
休ませること自体は悪くありません。問題は「休んだ日に何も残らないこと」です。次の3つだけは切らないようにしてください。
① 友だちとの接点
これがいちばん強いカードです。現場で見てきて断言できるのは、友だちの力は、家族や先生よりも圧倒的に強いということ。別室や保健室に行けた日は、必ず友だちに会いに来てもらうようにしていました。楽しい時間を過ごせれば、それがそのまま「明日また行く理由」になります。
- 高学年:放課後に友だちと遊ぶ時間をつくる(本人同士で約束できる年齢です)
- 低学年:子どもだけで約束するのは難しいので、大人が間に入って場をつくる
② 家の外に出る用事
買い物でも、図書館でも、祖父母の家でも構いません。学校でなくてもいいので、家の外に出る用事を週に何回か。引きこもりへ進まないための、いちばん現実的な予防線です。
③ 学校との細い連絡線
毎日でなくて構いません。「週1回、連絡帳で近況だけ」くらいの細さで十分です。線が完全に切れると、戻りたくなったときの再開が一気に重くなります。教育支援センターやフリースクールのような学校以外の居場所も、この「外とのつながり」の1本として数えて大丈夫です。
「休ませてばかりでいいのか」と不安になったら
ここで一度、義務教育の話をさせてください。多くの方が「子どもは学校に行って勉強しなければならない」と思っていますが、日本国憲法に書かれているのは、正確には「保護者には、子どもに教育を受けさせる義務がある」です。
つまり、場所や形が学校である必要はありません。家庭でも、教育支援センターでも、フリースクールでも、子どもが学べる場を用意していれば、保護者としての義務は果たしています。「休ませる=義務を怠っている」ではないのです。
それでも夜になると不安が押し寄せてくると思います。そういうときは、同じ道を通った先輩の親や専門家の言葉を読むのが、いちばん効きます。不登校の子を育てる親向けの本を1冊そばに置いておくと、朝の判断がぶれにくくなります。子どもの心の安定より先に、親の心の安定が要る——これは順番の話です。
専門機関に相談する目安になるサイン
次のようなサインが続いているときは、様子を見るより、小児科やスクールカウンセラー、地域の相談窓口に一度相談することをおすすめします。
- 朝、布団から起き上がれない日が続く
- 夜中に何度も目が覚める/眠れない
- 食欲が落ちている
- 以前は楽しんでいたことを、楽しめなくなっている
「大げさかな」と迷う必要はありません。早い段階で相談したほうが、打てる手は多いです。相談した結果「様子を見て大丈夫」と言われたなら、それはそれで安心材料になります。
それでも「行かせてよかった」と思える日もあります
ここまで無理強いのデメリットを書いてきましたが、登校を後押しすること自体が悪いわけではありません。
本人に「行きたい」という気持ちが残っていて、その日に楽しみがある——たとえば仲のいい子に会える、好きな授業がある、行事に参加したい。こういう日に、大人が背中を少し押すのは、むしろ良い関わりです。学級レク・社会見学・運動会・遠足など、本人が行きたいと思うものへの参加は、引きこもりを防ぐ手段の1つになります。
最終判断は、できるだけ子ども本人にしてもらってください。親が決めてしまうと、うまくいかなかったときに「あのとき決めたのはお母さんだ」と、責任が親に向かいます。自分で決めた子は、失敗しても自分で立て直せます。
まとめ|今日できる小さな一歩
- 「行かせる/休ませる」の二択より、家の外とのつながりが何本残っているかで判断する
- 無理強いで得られるのは今日1日の出席。失うのはその後の親子関係
- 行きしぶりの子は「学校に行く理由」を失っている。押すより、理由を1つ足す
- 朝の軸は「行きたい気持ちが残っているか」。体のサインが出ていたら休ませる
- 休ませる日も、友だち・外に出る用事・学校との細い線の3本は切らない
- 最終判断は子ども本人に。親が決めると、責任が親に向かってしまう
今日できる一歩は、たぶんこれです。次に子どもが機嫌のいいときに、「学校で、これだけはちょっと楽しいな、ってことある?」と聞いてみる。1つでも出てきたら、そこが糸口です。何も出てこなくても、それはそれで「今は理由がゼロなんだ」とわかる。どちらでも収穫があります。
今は、あなたの心の安定と、お子さんの心の安定が最優先です。時間は十分にあります。長い人生の、今はほんの一部です。あなたとお子さんにとって最適な場所が見つかることを願っています。
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