別室登校・保健室登校から教室に戻れる子は何が違う?〜元教員・公認心理師が見た「分かれ道」〜

教育

「教室には入れないけれど、別室(保健室)までなら行ける」——
別室登校が始まると、親としては少しホッとする一方で、新しい不安が生まれます。このまま教室に戻れるのか。それとも、ずっと別室のままなのか。

保護者

別室登校を始めて1ヶ月。行けるだけありがたいけど、この先どう進めればいいのか、親は何をすればいいのか、正直わかりません…。
先生

実は、別室登校がうまくいくかどうかは「子どもの頑張り」では決まらないんです。学校の中にいた人間として、その分かれ道をお話ししますね。

元小学校教員として15年、いまはスクールカウンセラー(公認心理師)として学校現場にいる立場から、この記事では別室登校・保健室登校がうまくいったケースと、こじれてしまったケースの「分かれ道」を、現場の実感でお伝えします。あわせて、親が学校に具体的にお願いできることも紹介します。

先に結論:別室は「教室復帰の練習場所」ではない

別室登校・保健室登校とは、教室ではなく保健室や相談室などで過ごす登校のかたちです。多くの学校で出席として扱われます(最終的な取り扱いは学校・校長の判断です)。

ここで、いちばん大事な結論を先に言います。別室は「教室に戻るための練習場所」ではなく、「安心して人とつながり直す場所」です。「早く教室へ」という前提で使うと、かえってこじれます。この違いが、そのまま「うまくいく別室登校」と「こじれる別室登校」の分かれ道になります。

うまくいったケース:別室に「会える人と楽しみ」があった

私が現場で見てきた中で、別室登校がうまく回っていた子には、はっきりした共通点があります。別室に「会える人」と「ちょっとした楽しみ」がちゃんと用意されていたことです。具体的にはこうです。

  • スクールカウンセラーとの面談を続けていた。それも「指導される時間」ではなく、その子が「今日はSCの先生と話せる日だ」と楽しみにできる内容で
  • 担任にお願いして、休み時間に仲のいい友達が相談室に来てくれるようにしていた。友達と会いたい気持ちがあるなら、教室に行けなくても友達のほうから来てもらえばいい
  • SCや担任だけでなく、養護教諭や教頭先生などとも、定期的に顔を合わせる機会をつくっていた。「学校の中に、誰にでも相談できる大人が何人もいる」という状態です

おわかりでしょうか。どれも、子ども自身の頑張りではありません。学校側が「会える人」をどれだけ用意できたかです。ここは現場にいた人間として、はっきり言っておきたいところです。別室登校の成否は、子どもの意志の強さではなく、別室が「孤独な自習室」になるか「人とつながれる部屋」になるかで決まります。

保護者

えっ、友達に来てもらうなんてお願いしていいんですか?迷惑がられませんか?
先生

いいんです。教員側から見ても、こういう具体的なお願いはむしろ助かります。「何をすれば力になれるか」が学校側もわかるからです。

こじれたケース:善意の「一緒に行こう!」

逆に、いまも忘れられないケースがあります。

別室まで来られていた子に、担任の先生が「一緒に行こう!」と声をかけて、教室に連れて行ったことがありました。先生に悪気はまったくありません。むしろ熱心で、良かれと思っての行動でした。その子も、先生の誘いを断りきれずに教室へ行きました。

その子は、次の日から学校に来られなくなりました。

本人の意思に反した「あと一押し」は、それまで積み上げてきたものを一日で崩してしまうことがあります。教室に近づくなら、あくまでスモールステップで。たとえば「まずは教室のある階まで、階段を登ってみる」。それくらい小さな一歩からです。そして大人は、そのときの顔色や呼吸など、子どもの体のサインを見ていてください。言葉では「大丈夫」と言う子も、体は正直です。

ご家庭でも同じです。別室に行けている姿を見ると、つい「もう教室も行けるんじゃない?」と言いたくなります。その気持ちはとてもよくわかります。でも、その一言は先ほどの「一緒に行こう!」と同じ働き方をしてしまうことがあります。教室に戻る日を決めるのは、大人ではなく、子どもの中にたまったエネルギーです。

親が学校にお願いできる4つのこと

では、親には何ができるのか。「学校側の体制」は、親からのお願いで動かせます。面談や連絡帳、電話で、こんなふうに伝えてみてください。

お願いすること伝え方の例
①SC面談を定期的に続けたい「カウンセラーの先生との時間を、本人が楽しみにできる形で続けさせてください」
②友達と会える時間をつくりたい「仲のいい〇〇さんが、休み時間に別室へ遊びに来られるよう、お声がけいただけませんか」
③関わる大人を増やしたい「担任の先生だけに負担が偏らないよう、保健室の先生や教頭先生とも顔を合わせる機会があるとうれしいです」
④教室復帰を急がせないでほしい「教室への誘いは、本人が『行ってみようかな』と言い出すまで待っていただけると助かります」

ポイントは、①〜③で「会える人」を増やし、④で「善意の一押し」を防ぐこと。この4つがそろうと、別室が「孤独な自習室」ではなく「人とつながれる部屋」に変わっていきます。

「動き出しのサイン」を見逃さない

最後に、希望の話をします。別室登校や自宅での時間が長くなってくると、多くの子に、あるサインが出てきます。「暇だな」「何かやりたいな」という言葉です。

これは、心のエネルギーがたまってきた合図です。休むことに全力だった時期を抜けて、外の世界にもう一度目が向き始めた瞬間。このタイミングだけは、そっと背中を押すチャンスです。勉強でなくてもかまいません。本人が「やりたい」と言ったことなら、何でも足がかりになります。

逆に、心配なサインもあります。朝、布団から起きられない。夜中に何度も目が覚める。食欲が落ちている。前は楽しめていたことを楽しめない。こうした状態が2週間以上続くときは、頑張らせる場面ではありません。かかりつけの小児科や、児童精神科・スクールカウンセラーなど、専門家に早めに相談してください。

まとめ:別室登校は「つながり直す場所」

  • 別室は教室復帰の練習場所ではなく、安心して人とつながり直す場所
  • うまくいくかは子どもの頑張りではなく、別室に「会える人と楽しみ」があるかで決まる
  • 本人の意思に反した「一緒に行こう!」は、翌日から行けなくなるほどの逆効果になりうる。階段を一つ登るくらいのスモールステップで
  • SC面談の継続・友達の訪問・関わる大人を増やす・急がせない——この4つは親から学校にお願いしていい
  • 「暇だ」「何かやりたい」は動き出しの合図。そのときだけ、そっと背中を押す

別室登校は、後退でも停滞でもありません。学校とのつながりを保ったまま、エネルギーをためられる、りっぱな登校のかたちです。今日別室で過ごせたなら、それだけで十分な前進です。焦らなくて大丈夫。「会える人」を少しずつ増やしながら、お子さんの中に力がたまるのを、一緒に待ちましょう。


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